大西景太
大塚直哉レクチャーコンサート
(ゲスト・ダンサー小㞍健太)
レクチャーと演奏を交互にすることでバッハのフーガをより理解できる企画。第5回目の今回は平均律クラヴィーア曲集第2巻の第7番から第13番まで。そのうちフーガ2曲のみ、ゲスト小尻健太さんのダンスが加わる趣向で、ダンス直後にはご本人の解説もあった。
1. 第10番 ホ短調
左右と中央に配された3つの照明と影+本人の踊りで3声のフーガを表現。いくつもの驚きがセッティングされている。
まず下手からゆっくりと静かに歩いてくる。右方のライトに近づくと正面の壁に影があらわれる。別の照明に変わると影の場所もかわる。影が3つに増える。(これは3声の演奏に対応していたそう)当然、照明に近づけば影は大きく、離れれば小さくなる。その影の大小と変化速度をコントロールして、動きの拡散と収縮の効果を倍加している。
視覚にほとんど意識が奪われてフーガは後景化し、3声の交わりはなんとなくしか感じないのだが、視覚の緊張感の緩急で時間、空間をよりダイナミックに感じる。この展開の設計自体が音楽的だと感じる。
手が二本しかないひとりの演奏の中に3つ以上のメロディを織り込むバッハはすごいが、ひとりのダンスでその重層性を表現できていることに驚嘆した。
2. 第8番 嬰二短調
今度は上手から登場、同じようにゆっくりと。そこから小さくシャープな動きで音を捉えたり、ロングトーンにあうようなゆっくりした動きに戻ったりしながら左方へと進む。楽譜のように一本の線状を移動しきって終わる。右方からの照明は、上方から降る光に変化したりも。
このフーガはスピードがゆっくりな分、ポリフォニーの聞き取りと身体動作の視認が同時に成立する。耳から聞こえるリズムと目から見えるリズムはあったりずれたりし、もうひとつのメロディが奏でられているように感じる。(ミュージックビデオが損ないがちなことだ。)バッハの音は隙間がないが(大塚さんいわく隙間恐怖症)小尻さんの動きにはたっぷりと間がある。緊張感と強靭な静けさのあるスローな動きが基調になっているので、大きく動かずとも、小さく速い動きが閃いて時空間にアクセントがうまれる。そのことをメロディアスだと感じるのだろう。
もちろんダンサーの動きはプロフェッショナルを極めているわけだが、音のどの部分を捉えて踊るのかという選択は素人にもできることだし、我々もそうやって踊るべきだな。
