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石川将也個展

Layers of Light

石川将也さんの個展。小型プロジェクターの光を、蛍光アクリルの性質を利用してRGB三層に分光する。現象をじっとみつめる喜びのある展示だった。

 

分光できること自体発明だが、「光の三原色」の原理をこんなかたちで美しく体験できるのかと驚きながらみた。自分は大学で色彩論の基礎を教えていたので、知識としては知っているものの、いつもRGBには直感的に理解しづらい不思議さがあるなと思っていた。例えば、絵具の赤と緑をまぜれば茶色になるのはイメージしやすいが、光の赤と緑を混ぜると黄色になるのは、知ってはいてもパっと飲み込めず、いつまでも不思議な感じがする。この作品の分光は仕組みの説明も含め、とてもわかりやすく提示されていたが、それでもなおこの不思議さがあるので、理解できても飽きずにじっと見つめてしまうのかなと思う。

 

投影された光は平面だが、それが三層になるだけで(惹句にしたがえば)「如実な」立体感を感じる不思議さもある。この「如実」というキーワードは石川さんが所属していた佐藤雅彦研究室の本「任意の点P(2003)」から引き継いでいるのだろう。本に付属のレンズを除くと、紙の上の細い線描が空間に立ち上がり、繊細な彫刻物になる。あの如実な立体視の体験は他で得られたことがなく忘れがたいが、今回の作品も自分の両目で見るよさがあった。

 

立体映像を見るのはARやVRでもできるが、そこにはこの「如実」が乏しい。今回の展示物を自分は、ギリギリまで近づき、這いつくばるように見たけれどそれは肉眼、肉薄という言葉が浮かぶような見かただったと思う。昨今オンラインで会議/授業/展示などは可能で、視聴覚は他の五感に比べ再現性があると思いがちだがそこには「肉」要素がなかった。視覚の触覚的要素とも言い換えられる。絵画をみるときは、絵の内容と同時に筆の質感も味わうように、今回の作品は映像の内容+素材である光自体を同時に味わえる(これは味覚的な言葉だ)珍しい機会だったように思う。質感のある微細な現象をじっと見ることにはそれ自体喜びがあるようだ、と帰り道によったラーメン屋の、スープに浮かぶ油を箸で突いて繋げつつ、思った。

 

また、三層の分光という生まれたばかりの手法を使ってできることを石川さんはすでにやりつくしているように思えた。展示をみるとつい、これを使ってどんなことができるか考えてしまうが、実際はアイデアを広げた上で絞りこんだ上澄みを展示されていた感じ。くわえて展示の実装部分も細部までチューニングされ荒削りな部分がない。極めて洗練されていた。

 

よいものを見るとやる気がでます。

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